非常識な司法試験合格法則

司法試験合格のための勉強の仕方について解説

刑事訴訟法の勉強法

刑事訴訟法は司法試験の科目の中でも受験生のレベルがさほど高くなく、少し意識を変えて勉強するだけで簡単に上位レベルに入ることができる。僕は、実務に入ってからは刑事訴訟法とのおつきあいはそんなにないが、受験生時代はそこそこ時間をかけて勉強していた科目であるので、刑事訴訟法には少し思い入れがある。そこで、刑事訴訟法の勉強法について少し語ってみようと思う。

刑事訴訟法の学力を司法試験上位合格レベル程度に引き上げるのに、そんなにおおがかりな工夫はいらない。以下の点に注意するだけでよいだろう。

  1. 条文から考える
  2. 判例の規範の意味を理解する
  3. 教材について

1.条文から考える

これはどの科目でも一緒なのだが、まずは条文から出発して欲しい。例えば、捜査の違法性が問題となる設問でよくみかける答案に、「本件は強制処分にあたらないか、~~なので強制処分である、よって、強制処分法定主義に違反し違法である。」といったものをよくみかける。

問題の核心は強制処分該当性にあったのだろう。受験生は強制処分法定主義にすぐに飛びついて、強制処分の定義を書いてそれにあてはめて満足することが多い。

しかし、そもそもなんのために強制処分該当性を検討するのかを確認して欲しい。まず出発点として、捜査の違法性が問題となるのは、その捜査が相手方の権利利益を侵害するからである。そして、国家が国民の権利利益を侵害するには法律の規定が必要になる(法律留保の原則)。そのため、当該権利利益の侵害を正当化するような法律を探すことから始めなければならない。

仮に上記答案の設問が、無令状での写真撮影の適法性が問題だったとしよう。当該写真撮影は、強制処分にあたるのだとしたら「検証」になるのであるから、検証許可状が本来必要になる。しかし、本件では令状を取得していないため、当該写真撮影が強制か否かを検討する必要が出てくる。そのため、強制処分である検証にあたるのであれば、218条1項の要件をみたさず、同条同項に反し違法となるとの問題提起をして本問の検討にあたるべきだろう。多くの受験生は、この抵触条文の指摘が不十分である。*1

他にも、例えばフロッピーディスクなどの記録媒体の包括的な差押えの場面を想定しよう。この場合問題となるのは、差押えする物品の「関連性」である。では、関連性に関する条文を指摘できる受験生はどれだけいるのかというと、実はそんなにいないのである。検討すべき条文の指摘などというのは最低限のレベルの話なのだと思うが、それすらできないのがほとんどであるので司法試験のレベルというのは実はたいしたことはない。

逆にいえば、条文をしっかり使いこなせさえすれば司法試験は楽勝である。

2.判例の規範の意味を理解する

刑事訴訟は判例が大事であるとよく言われている。そのため、受験生も判例の規範をきっちり覚えているだろう。ただし、残念ながら、判例の規範の意味までしっかり理解している受験生はさほどいない。

例えば、任意捜査の限界の論点では、ほぼ9割がたの受験生が最決昭和51年3月16日(百選9版1事件)の「必要性、緊急性、相当性」の規範をほぼ正確に書き、「必要性がある。緊急性がある。相当性もある。よって、適法。」と金太郎飴みたいに同じような答案を書いてくる。

しかし、「必要性、緊急性、相当性」といったものが、どういった原理原則から導かれるものなのか、判例のいう「相当性」とはなんなのかといったことをきちんと説明できている答案は上位のひとにぎりだけしかない。「必要性、緊急性、相当性」といった文言など条文のどこにも書いていないにもかかわらずだ。おそらく採点委員は、何も考えずただ必要性・緊急性・相当性を並列にあてはめてくる答案の山をみて非常に嘆いていることだろう。判例の規範を覚えることは重要であるが、その意味を理解しなければ全く意味がないということを受験生には理解して欲しい。なお、判例の規範の意味については、百選1事件の解説2項にもきちんと書いてあるので、受験生はきちんと読んだ上で論証・あてはめを再考しておきたい。

判例の規範を機械的に覚えるだけでなく、その意味をしっかり理解して答案に理解を示せれば、上位答案間違いなしである。

3.教材について

刑事訴訟法の教材については、ありがたいことに市販でかなり高水準なものが手に入る。まず必須なのは判例百選である。

刑訴法を学習する上で、判例が重要なのは言うまでもないことであろう。刑訴法の百選は他の科目の百選に比べても、解説のレベルがかなり高く、試験に使える記述が多い。受験生としては百選を中心に勉強すべきである。

さらに2で述べた、判例の規範の意味を正確に理解するためにも、重要判例については最高裁判例解説(いわゆる調査官解説)を読んでおきたい。最高裁判例解説は、購入するのは値段的にきついと思うが、図書館などから手に入るだろう。

基本的には、百選を中心に勉強して、問題演習は旧司法試験、新司法試験の過去問集をやればよい。これらの過去問を潰せば刑訴法の論点はほぼ網羅できると思われる。

基本書については、必ずしも通読する必要はないと思うが、基礎知識の確認のために1冊もっておきたいなら、池田・前田教授共著の刑事訴訟法講義が無難だろう。本書は賛否両論はあるものの、余計なことがあまり書いていないという意味で個人的にはおすすめである。

現時点(2018.6.15)ではリーガルクエス刑事訴訟法がベストと考えます。

刑事訴訟法の基本書 - 非常識な司法試験合格法則

*1:コメントで218条1項以前に197条1項但書違反であるとの指摘があったが、まさに本文で指摘したとおりの受験生の答案の問題点である。197条1項但書は法定主義違反の問題であり、具体的な根拠規定がある場合は、その規定に照らして適法性の判断をすれば足りる。条文に基づいて具体的事例を検討しようという基本ができていないため、このようなミスをおかしてしまうのである。